北海道を舞台に、侵攻してきたロシア軍と迎え撃つ陸上自衛隊が、壮絶な地上戦を展開する──。ロシアによるウクライナ侵攻を彷彿とさせる設定と「リアル過ぎる」戦場描写が話題のマンガ『小隊』の進撃が続いている。

「発売1カ月で早くも4刷が決定しました。特に作品の舞台である北海道の書店では、原作の文庫と併読いただく形で、大々的に展開いただいております。当初のミリタリーファン中心から、一般の読者にも浸透している印象を受けます」(担当編集者)

 内容を簡単に紹介すると……宣戦布告のないまま、ロシア軍が道北と道東の二方面から北海道に上陸、橋頭堡を築いた。自衛隊は住民を避難させ、防御態勢を固める。にらみ合いが続くなか、小隊を率いる安達3尉は中隊指揮所から呼び出しをうける。「敵は明朝、行動開始と見積もられる」。いよいよ“ホンモノの戦闘”がはじまる……。

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  元自衛官の芥川賞作家、砂川文次氏の原作小説を、精緻なミリタリー・イラストレーションで知られる柏葉比呂樹氏がコミック化した。「鳥肌が立つほどのリアルさ」と評されるほどの緊迫感はなぜ実現できたのか?   創作とコミカライズの舞台裏について、原作者の砂川さんにあらためてお聞きした。

戦場での喫煙はNG

──作中、安達3尉が陣地内で煙草を吸うシーンがあります。戦場では、屋外での喫煙は厳禁なのですか?

 

砂川 幹部候補生学校時代、確か陣地防御の訓練だったと思いますが、教官が「“遮光”の重要性を教える」と候補生を集めたことがありました。夜間、人工の明かりが全くない演習場で、助教が100mくらい離れたところで煙草を吸ってみせ、実際にどう見えるかを実演したわけです。

 煙草程度の小さな火種でも、結構くっきりと明かりが確認できたのと、同時にその頃はまだ喫煙者でもありましたから「おれもゆっくり煙草でも吸いてえなあ」と思ったのをよく覚えています(笑)。掩体とか草むらの中に隠れて吸ってる同期もいましたが、どこからともなくやってきた教官に「においも遠くまで流れるんじゃボケ!」とシバかれていました。

──若い小隊長である安達と年輩の陸曹である小熊との微妙な人間関係が描かれていますが、部隊における人間関係は実際、大変なのでしょうか?

砂川 “人間関係のままならなさ”というものは、おそらくどんな仕事にもついて回るものではないでしょうか。ただこれが陸上自衛隊というところになると、相手は経験も知識も豊富なベテラン陸曹(「古参兵」と読み替えていただいてもいいのかな、と)になるわけですから、階級章だけぶら下げたぽっと出の若手幹部がジタバタしてみたところで、まあ全く相手にもされないわけです(笑)。

 そして現場のイロハを一番知っているのもまたこの方たちなので、初級幹部は学校や教範(自衛隊におけるマニュアルのようなもの)からは読み取れない、生きた知識・技術をここで学ぶことになります。“同期の繋がり”もさることながら、この部隊における人間関係というのも、今にして思えば、やはりなかなか独特なものだったなあと感じているところです。

 ちなみにわたしもご多分に漏れず、最初はよく手強いベテランのみなさんにやっつけられましたが、そのかいあってか、自衛隊を去ったいまでも親交が続いております(笑)。