2023年には、7年に1度のG7の議長国と、3年に1度のASEAN+3(日中韓)の共同議長国の役割を日本が担うこととなった。前財務官の神田眞人氏が、その際の奮闘を語った。

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「ウェルフェア」の強調

 気のせいだろうか、財務官室の中を白けた雰囲気が支配していた。「皆、どう思う」と重ねて聞いても仲間から芳しい反応がなかった。反対も賛成もなく、沈黙が続く。「神田財務官が思いつきで無茶を言い出した」と思われたのか。

 2022年の晩夏、私が示唆したのは、GDPを絶対視せず、多角的に「幸福」を追求するための経済政策「ウェルフェア・プロジェクト」である。

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G7に向けて「ウェルフェアプロジェクト」を企画した神田氏 ©文藝春秋

「社会不安が高まる中、来年、日本が議長国を務めるG7の目玉政策の一つとして『GDPを超えた経済政策』を打ち出したい。むろん、GDPも引き続き証拠に基づく政策立案(EBPM)の基軸とするが、明らかに政策の指針として機能していないところがある。今後は、格差や持続可能性の視点を取り入れることに加え、デジタル経済も把握したい。そうした多様な価値観を経済政策に反映することにより、人々のウェルフェアを高めていきたい」

 私はそう訴えたが、自分の若かった時の経験を踏まえると、部下たちはきっと「財務官の意見を正面から否定しても反論されるだけだろうから、とりあえず、放っておいて忘れるのを待とう」といった戸惑いを持ちながら、様子見をしていたのかもしれない。既に極めて多忙の仲間に過度の負担をかけたくはなかったが、世界中で社会の分断が進む中、どうしてもやりたかったので、その後も折に触れて、示唆を繰り返した。