2008年、香港で起きた16歳少女のバラバラ殺人事件。彼女を殺害した犯人男性は、解体した遺体をトイレや海に廃棄、骨を市場に紛れ込ませるなど証拠隠滅に走る。彼女の遺体はこの世からすべて消えたはず…と思いきや、警察が見つけた「動かぬ証拠」によって、男の犯行が証明される事態に。実際に起きた事件などを題材とした映画の元ネタを解説する文庫新刊『映画になった恐怖の実話Ⅲ』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする(全2回の2回目/最初から読む)
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自室に戻ったディンは血のついた床やベッドを何度も拭き、トイレをシャワーで洗った。そして、ワンの財布から3千400元(約7万円)を奪うと、身分証明書や携帯電話などの私物を壊して廃棄。
全てが終わったのは午前3時だった。
犯人は逮捕できたが…
「あの日何が起こったのか、なぜあの女性は死んだのか、ずっと考えて眠れませんでした。これからどうなるのか怖かったので考えるのをやめて、何事もなかったかのように生きようと思ったのです」
後の供述どおり、ディンは殺害翌日の4月28日には、別の15歳の少女に援助交際を申し込み、ワンを殺害したベッドでセックスし、その後、密輸タバコを売り、酒を飲み、麻薬を摂取した。
いつもどおりの日常に戻ったはずだった。が、8日後の5月6日、身柄を拘束される。実は解体最中、ディンはクラブに一緒に行った友人に電話をかけ「人を殺した」「痩せてるのに包丁にべったり脂がついた」などと話していた。友人は本気にしていなかったが、少女失踪のニュースを目にして愕然とする。報道された行方不明の場所も少女の特徴もディンが語った内容と酷似していたのだ。そこで、半信半疑ながらも警察に通報。逮捕につながった。
ディンは素直に犯行を自白した。が、肝心の遺体がない。万が一、裁判で供述を翻されたら公判の維持が難しくなる。そこで、警察は、ディンの部屋の便器を解体し、革張りの椅子や浴槽、壁や配管まで分解して押収。さらに、九龍城埠頭沖で水中捜索したものの成果は得られない。