公衆衛生史上、最悪とされる全米で50万人以上が命を落とした医療災害の顛末を紐解くドラマ『ペイン・キラー』(ネットフリックスで配信中)。医療ビジネスが引き起こした深刻な社会問題を描いた作品だ。
「この物語は事実に基づくが、一部はフィクションです」
実話ベースの作品の最後によく目にする定型句だが、本作では冒頭で見知らぬ市井の人々がカメラに向かってこの文言を読み上げる。さらに、遺影を手にしてこう続ける。
「……でも、息子の死は作り話ではありません。24歳の時、オキシコンチン(鎮痛薬)を服用して他界しました」
全6話の冒頭は毎回、実際に家族を失った遺族が“事実”を語るシーンから始まる。後に描かれる物語が現実に起こった悲劇と地続きだと観客に強く印象づける作りだ。
2000年前後から依存性・中毒性のある麻薬物質「オピオイド」を含む鎮痛薬の乱用が全米で大きな問題となった。発端は製薬会社パーデュー社が製造・販売したオピオイド系処方鎮痛剤「オキシコンチン」の登場だ。開発にあたって社長のリチャード・サックラーはこう指示する。
「私は、人々に幸福感をもたらす鎮痛薬を作りたい」
モルヒネを含有する従来の鎮痛剤を改良し、なんとヘロインを入れたより強力な薬を作ったのだ。痛みを取り除くだけでなく、薬の乱用や依存を引き起こすのでは? そもそもそんな薬がFDA(米食品医薬品局)の認可を得られるのか? たちまち疑問が湧く。
だが、驚くことにこの“悪魔の薬”は実際に認可を得て、世に放たれた。結果、怪我をした後に医師から処方され、オピオイド中毒となり、人生が破滅する者が続出した。裏社会で流通する麻薬ではなく“合法的な薬”で中毒者が溢れ、地域社会は崩壊し、多くの人命が失われた。この前代未聞の医療災害は後味の悪さも想像を遥かに超えている。ドラマとして描かれる“事実”の重さに目眩をおぼえる。
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