2024年5月、SNS上で起きた“デカ女ブーム”の中で、上野駅で撮られたある写真が大きな話題を集めた。写っているのはウクライナ出身のコスプレイヤー・モデルのネトーチカさんだ。180cmに届く彼女の身長は、上野駅の低い天井をやすやすと超えてしまっている。
ネトーチカさんは、ロシアによる侵攻をきっかけに故郷のウクライナを離れた避難民でもある。一体どんな経緯で日本に辿り着いたのか。“デカ女”と呼ばれてどう思っているのか――。ライターの徳重龍徳氏が詳しく話を聞いた。
所持金はわずか8万円…日本に避難するまで
2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻した日の朝5時、ネトーチカさんはスイスの友人からの電話で「大丈夫? ウクライナが爆撃されているよ」と言われて驚いた。すぐに母親に連絡し、隣国モルドバへ避難したという。
そして1週間後、一旦自宅に帰ってきたネトーチカさんだったが、4月に入るとさらに攻撃は激しくなる。住んでいる場所の1キロ先を爆撃されることもあった。
「毎日空襲警報が鳴り、朝4時に防空壕に避難する生活が続きましたし、心配で眠ることもできません。本当に異常な状況で、人々の精神状態も大変でした。ほぼ毎日攻撃を受けていたので、港での仕事もなくなり、辞めざるを得ませんでした。貯金もどんどん減っていき、生活は苦しくなっていきました」
ついにネトーチカさんは、日本への避難を決意した。ビザ発行にはポーランドのクラクフまで移動する必要があり、発行まではなんと約1か月もかかった。ホテル費用がかさんだ結果、日本に到着した時には8万円ほどしか持っていなかったという。
日本でのカルチャーショックの数々
日本で生活を始めてからは、「ルールを順守する日本人の姿」や、スイーツショップが並ぶ賑やかな池袋駅の地下道など、驚くことがたくさんあった。困ったのはファッションだ。これまでネトーチカさんが身につけていたヨーロッパのファッションと日本のファッションは、あまりにも違っていたのだ。
「そもそもヨーロッパは日本ほどファッションに気を使わないんです。それに私は背が高いので、ミニスカートをはくと、とてもセクシーに見えちゃうんです。それが日本では大丈夫かなと心配でした」
ほかにも電車でよく頭をぶつけたり、職場のデスクが小さすぎて筋肉痛になったりと、身長の悩みは尽きない。高校時代からやってみたいと思っていた、念願のコスプレをする時にも身長が気になる瞬間があるという。
「時々コスプレしたいキャラクターが私の身長に合わないことがあるので悲しくなりますが、逆に『ファイナルファンタジーVII』のティファや『GANTZ』のような強いキャラクターは背が高い方がかっこよく見えるので、私の体型に合っているなって思います」
そんなネトーチカさんは、日本で“デカ女”として注目を浴びたことをどう思っているのだろうか。
「実際SNSで“デカ女ブーム”になる前は、背が高いことの魅力に気づいていませんでしたが、日本では背の高い人が好きな人が多いことがわかりました。私のスタイルについてたくさん褒めてもらえましたし、気づけてとても嬉しかったです」
現在は、コスプレやSNSを通して日本の人々にウクライナの文化を伝えることが使命だと思っているという。「ウクライナへ興味を持ってほしいです。興味をもってもらえることが、戦争の中で私達にとって少しでもよい未来につながります」と訴えかけた。
写真=細田忠/文藝春秋
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ネトーチカさんが日本のアニメを好きになったきっかけや、ウクライナに一時帰国した時のこと、トランプ大統領やゼレンスキー大統領に対しての想いなど、さらに詳しいインタビューの全文は、
#1『古いソビエト製のテレビで見たため「セーラームーンが金髪だと知らなかった」ウクライナ人コスプレイヤーが語る“日本アニメとの出会い”』
#2『「セクシーに見えちゃうのが、大丈夫かなって」“デカ女”でバズった身長180cmのウクライナ人コスプレイヤーが日本に来て“困ったこと”』
#3『「ロシアの一部になりたいのでは?」と聞いてくる人も…日本在住のウクライナ人コスプレイヤーが語る、日本人に“知っておいてほしいこと”』
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