「僕は、どうでもいい存在だ」
高校教師チェンの勤める学校で、自殺をほのめかす遺書が見つかった。かつて、幼少期の日記に綴られたものと同じ言葉に、チェンは遺書を書いた生徒の心境を思う。妻と離婚し、一人になった部屋で、チェンは長らく開いていなかった日記を再びめくりはじめた。よみがえるのは、優秀な弟と不出来な兄が、厳格な両親のもとで暮らした日々の記憶――。
子どもの苦悩を繊細に描いた物語
香港映画『年少日記』は、厳しい競争社会や伝統的な家父長制のもと、子どもたちにのしかかるプレッシャーや苦しみを繊細に描いた物語だ。わずか95分という上映時間ながら思わぬ深みに到達する本作は、現在と過去を行き来しながら展開する巧みな脚本で、観る者に忘れられない感動をもたらす。
「中華圏のアカデミー賞」こと第60回金馬奨で観客賞・最優秀新人監督賞を受賞した本作を手がけたのは、今回が長編映画デビューのニック・チェク監督。第 17 回アジア・フィルム・アワードでも最優秀新人監督賞に輝き、第 36 回東京国際映画祭でも絶賛を浴びた。
企画の原点は、“友人の自殺”
企画の原点は、映画を学んでいた大学時代に友人が自殺したという実体験だった。「ようやく監督として映画を撮れるようになった今、自殺という社会問題を探究したい、その友人について語りたいと思いました」という。
「友人が亡くなったあとから、10代の自殺問題について議論すべきだと感じていました。けれど、香港には“悪いことについては話さない”という文化があり、この問題を語りたがる人はいません。一種のタブーであり、なかなか口に出せないのです。しかし、語らないからといってその問題がなくなるわけではない。状況は改善しないどころか、むしろ悪化していると思います」