「路上に血だまりがある」――我慢できず、ときには駐車場で出産したことも…。駅のコインロッカーに赤ちゃんの遺体を捨てたことで逮捕された当時33歳の女性。裁判によって明らかになった出産回数は12回。彼女はなぜ母親として生きられなかったのか? 彼女のその後とは…。2023年に起きた事件の顛末をお届け。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/最初から読む)

写真はイメージ ©getty

◆◆◆

「親の愛情を受けたことがない」悲しき人生

 有希は子どもの頃、家庭に恵まれなかった。親の愛情を受けたことはなく、楽しい思い出も皆無。小学校6年生のときには母親が子どもたちを置いて出て行ってしまい、途方に暮れた。

ADVERTISEMENT

 ヤングケアラーになることを余儀なくされ、中学生のときには母親が連れてきた交際相手の男に強姦され、身も心もボロボロになった。

 高校に進学するという選択肢はなく、中学を卒業すると惣菜工場で働いた。だが、薄給に嫌気がさし、援助交際を繰り返すようになり、風俗に行き着いた。

 コンドームに対するゴムアレルギーは当時からのもので、客に追加料金をもらって本番に応じると、避妊は一切しなかった。

写真はイメージ ©getty

 その結果、次々と妊娠しては出産することになった。中には死産だった子どももいるが、元気に生まれてくると、すぐに施設に預けた。

 それ以来、1度も我が子の様子を見に行ったことはなかった。そんなことを何と11回も繰り返していたのだ。それはほぼ毎年の恒例行事のようなものだった。

 だから、今回の妊娠も慌てなかった。どうせ誰の子か分からない。また施設に預けることになるか、病院で処置することになるだろうと漠然と考えていた。

 有希は大酒飲みの上、タバコを1日4箱も吸うヘビースモーカーだった。妊娠中といっても、それを控えることもなかった。客とは相変わらず膣内射精を繰り返し、日に日に大きくなっていく腹の具合だけを心配していた。