1972年(90分)/東宝/3300円(税込)

 ここ数年、東宝がこれまでなかなか観る機会の少なかったマニアックな映画を次々とDVD化している。そして、またやってくれた。

 それが、今回取り上げる『混血児リカ』だ。日本映画が最も荒んでいた一九七〇年代前半ならではの一本である。

 主人公は、米兵に犯された日本の女子高校生から産まれたリカ(青木リカ)。彼女もまた母親(今井和子)の情夫(森塚敏)によるレイプが初めての性体験となり、それをキッカケに家出、横浜で暴力の世界に身を投じていった。そして、仲間たちがヤクザに輪姦された挙句に戦争中のベトナムに娼婦として売り渡されると知ったことで、リカはヤクザ相手に立ち向かう。

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 女性を性的に虐げる男たちと果敢に闘うヒロイン――という構図は、同時代に東映で作られたバイオレンス映画と同じだ。ただ、大きく異なる点がある。それは、本作にはラーメンでいうところの「味変」がないということだ。

 東映作品では、たとえば由利徹などのコメディアンが笑わせてくれたり、名和宏や遠藤辰雄の演じる悪役たちが憎々しくも愛嬌があったりした。つまり、エロスやバイオレンス一辺倒にならないよう、さまざまな調味料がふりかけられていたのである。

 が、本作はそうした遊びの要素は全くない。それもそのはず。脚本が新藤兼人で、制作も彼が率いる近代映画協会。骨太な社会派作品で知られる座組だ。さらに脇役陣も森塚、今井に加えて初井言榮といった劇団青年座のベテランたちが多く固めている。そのため、どこまでも生真面目な作りになっているのである。

 それだけに、東映に比べてエンターテインメント性は劣る。一方で女性の怒りや痛みといったメッセージはストレートに伝わってきた。

 そして驚かされるのは、中平康監督の作り出す異様なまでのスピード感だ。

 個々の芝居に間がなく、受けの芝居もほとんど挟まれない。その上、「え、もう切り替わるの?」という早いタイミングで場面は次に移る。普通ならたっぷり時間をとった感動的場面になりそうな母親との再会シーンや、東映ならネットリと派手に撮りそうな母親による情夫の惨殺シーンすら、サッと描写したらすぐに場面転換し、何事もなかったかのように次に進む。ケレン味も情感も排除してひたすら前に進む展開は唐突ですらあり、少し気を抜いたり目を離したりすると、物語の進行に置いていかれる。

 新藤の硬質な作劇と中平の怒濤の演出が組み合わさることで、極端に乾いた世界を創出。結果的に、リカを覆う絶望感が映し出されていった。