誹謗中傷をテーマにした長編小説『踊りつかれて』。作中で、週刊誌報道やSNS上の情報が”暴力”へと転じる社会を描いた塩田さんが社会に抱く怒りと希望とは。(全3回の3回目/最初から読む

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インスタに並ぶ地獄のようなコメント

 塩田 そうなると、さっきの話にもあったように、読者の側、我々一人ひとりの意識を変えていくしかない。結局それがいちばん早い道かもしれません。僕もそのために『踊りつかれて』を書いたところがあって、希望はもっているんです。というのも、自分が子供の頃、野良犬がその辺を歩いてたし、タバコの吸い殻が落ちていたし、ゴミの分別もしてなかったけれど、今はすごく綺麗になってる。基本的に人類って、自分たちの倫理観を向上させていく存在だと思うんです。

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 ひるがえって、たとえば不倫が報じられた女優さんのインスタを見てもらったらわかりますけど、もう地獄のようなコメントがついてますよ。よくこんなに人の心を抉れるよなあと驚くような、選び抜かれた苛烈な言葉が並んでいる。

 竹田 うーん。

©文藝春秋

 塩田 こんな目を覆うような状況が今後10年、20年と続くとは思えないし、僕自身、週刊誌の愛読者として、年齢が上がったせいかもしれないけれど、スキャンダル記事をあまり読まなくなってきている。日本人の不倫報道に対する考え方、芸能人は準公人なのかという点も、徐々に変わっていくと思うんですよ。きっと何らかの転換点はあって、50年後には「昔は芸能人の不倫がニュースになってたの?」と驚かれる時代になる。自分たちの生活とか暮らしに直結する記事がもっと大事に読まれる社会が来ます。

 竹田 そのとおりだと思いますし、実際、編集部の現場も常に変わり続けてはいるんです。ひと昔前、たかだか15年、20年くらい前の週刊誌には、まだ見出しに「ハゲ」「デブ」「ホモ」「チビ」なんて言葉があったと思います。今は完全に消えました。そんな言葉を活字にするなんて頭おかしいと誰もが思う時代になったからです。もう少し最近だと、たとえば「巨乳〇〇」とか「美人〇〇」、こういう見出しもなくなりつつあります。ある臨界点を超えると、流れは一気に変わるものですから、50年といわずもっと早い気もしてるんですが、タレントのデート写真を載せるなんて頭おかしいんじゃないの、というふうに読者の感じ方が変われば、うちも含めてすっと記事は消えていくでしょう。

 塩田 僕はもともと新聞社にいまして、同じような経験をしています。それは被害者の顔写真ですね。

 竹田 ああ、なるほど。