30歳まで無職だった経歴をもつ、WEBメディア『オモコロ』の人気ライター・ディレクターのマンスーンさん。大学を卒業後、5年間の無職生活を経て、会社員になったマンスーンさんが気づいた“変えられないもの”とは?
当時の赤裸々な暮らしぶりと、ライターになるまでの道のりを書いたエッセイ『無職、川、ブックオフ』より一部抜粋して紹介します。(全3回の3回目/最初から読む)
◆◆◆
社会人になったら変わるのかと思ってたけど…
30歳。会社員になった。働いた。今も働いている。右も左も上も下も毎日乗る電車のつらさもわからない状態だったのに。インターネットに記事を書いていたら就職できた。暇だからという理由でちゃんと〆切を守り続けていたら就職できた。暇も悪いものではない。土手とコンビニじゃない場所に毎日行ける。行ける。起きられる。朝。寝られる。夜。
名刺を手に入れた。インターネットだった自分が紙に印刷された。自分を他人に渡せるようになった。机と椅子とパソコンを手に入れた。家じゃないのに座っててもいい。家じゃないのに涼しい。家じゃないのにインターネットをしててもいい。ウォーターサーバーで冷たい水をいつでも飲めるようになった。水うまい。
社会人になったら変わるのかと思ってたけど、そんなに変わらなかった。社会人になっても変わらないのかと思ってたけど、少しだけ変わった。
消費するだけの時間がもったいなくなった。やることがあるという事実だけで時間が突如として自分の残機みたいなものになって使い方を工夫するようにした。毎日寝て少しでも進めようとしていた時間。ああもったいない。こんなにも時間が大切なものだとは思わなかった。気を緩めたら一瞬で夜になる。瞬きをしたら朝になる。しかもそれが歳を重ねるごとに加速していくのだから困った。寝ていただけの1年も。忙しく過ごした1年も。1年だ。大して変わらない。かもしれない。どうしようもない。逆らえない。止めてくれ。止めて。時間を。人生を。止めないで。流れ続けて。終わりまで。連れてって。